北海道人格教育ニュース 12号2017年9月発行
人格教育特別講演in札幌(要旨)
日本を活かす人格教育の理念と実践-日米での経験から
(立正大学特任教授)
現在、道徳の価値は定まっているようで定まっていない。多様性に富み、グローバルな現代社会では、昔の価値基準をそのまま当てはめることはできない。大事なことは、対話の文化を育むとともに下からの合意を形成しつつ、道徳的な社会を皆で創りあげて行こうという姿勢である。
私はかつて、米国セントルイス市の人格教育を導入している学校を、実践者であるバーコヴィッチという方と見て回ったことがある。「いじめをなくそう」をテーマとしている学校では、子どもの「対話」つまりコミュニケーション力を高め、自らで解決できる力を身につけさせ、子どもを学校の道徳文化を形成する主役にしようとしていた。日本ではいじめをなくせと言うが、米国ではマネージメントせよと言い、よき教育の機会と捉えて、そのスキル、技術、態度を教える。
では、人格教育とは何か、一言でいうと意図的に徳を教える教育のことである。人格とは、徳(美徳、ヴァーチュー)のことで、徳は本質的に善であり、時代や文化を超越している。人格教育の目的は、徳のある人間を育成することである。品格・人格の3要素は知識(head)、情操(heart)、行為(hand)である。次に、その方策としては第1に教師はケアする人、モデルとして行動する。第2に話し易い教室の環境を育成する。第3に道徳行為を習慣化させる。第4に徳を教えるカリキュラムをつくる。第5に共同学習を行う。第6に良心を育成する。第7にひとりひとりが道徳的に考えるように導く。第8に争いごとを解決する技術、つまりメディエーション(調停)を教える。第9に教室を超えてケアする態度を育成し、学校にポジティブな文化を創造する。第10に保護者や地域社会、場合によっては敵対者をも取り込み教育のパートナーとして参画させることなどが挙げられる。
道徳を具体化するためには、時間をかけて道徳文化を形成しようとする努力が必要だ。旧来の道徳は、権威ある者が教えることで十分な効果があったが、新しい徳の教育は、異なるものがお互いに相手を理解しようとして歩み寄り、意見の違いや立場の違いを超え、より質の高い道徳文化を形成する必要がある。徳の内容として①知恵②正義③不屈の精神④節制・自己管理⑤愛⑥肯定的な態度⑦勤勉⑧誠実⑨感謝⑩謙虚などが代表的なものである。感謝は幸せな人生を送る秘訣であり、謙虚さは他の徳を身につけるために必要であり、知恵は他の徳をどのように実践に移せばよいのかについて教えてくれる。勤勉の中には、努力、工夫、独創性なども含まれる。落ちこぼれをなくす意味では、不屈の精神が重要だが、日本の部活の指導では課題があるようだ。また、正義・感謝・愛などの他者に向けられる徳と不屈の精神・自己管理・謙虚などの自己に向けられる2種類の徳は、相互に関係している。他者に対して正しいことをするには、自分自身を管理しなくてはならない。
徳のある人間を育成するためにはまず、徳目に関する言葉を使うようにして子どもの徳に対する意識を高めて行く。次に、物語、芸術、詩、歌などを活用し感動による動機を与え、心を刺激して徳に対する理解を深める。そして、実際の行動につながるよう刺激し、実践する機会を与える。米国では行っていないが掃除の機会を設けることなどは最高の実践の機会であると言える。最後に、内省を促す。内省して自分を変えていく力は人生において大変重要なものとなる。(平成29年7月15日開催)
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