北海道人格教育ニュース第15号 2018年6月発行
第5回北海道人格教育フォーラム(要旨)(2018年6月2日開催)
子育て支援と『親育ち』
北星学園大学教授
私は、社会教育の視点から親の主体形成の研究をライフワークとしているが、ひきこもりや虐待が増加した1990年代から約20年近く、道立精神保健福祉センターで相談員をしていた。日本の子育て支援政策を概観すると子育て支援という言葉が市民権を得たのは、1990年に政府が発表した合計特殊出生率1.57によるショックがきっかけである。これ以降少子化対策が始まるが、それだけでは解決しないため若者支援へと方向転換して行き、2015年には保育園を中心として母親が仕事と子育てを両立できるよう支援することを目的に、子ども・子育て支援新制度が本格施行された。
今、あらためてなぜ子育て支援が必要かを整理すると第1に、「孤立」する子育ての問題がある。親元を離れて身近に相談する人がいない状況でのアウェイ子育てが、子育て広場連絡会の調査では全体の72%に達している。かつて「魔のトライアングル(家・スーパー・公園)」と言われたが、周囲に言葉を交わす人がいない。第2に、「母親は家事と子育て、父親は仕事」という考え方の影響。イクメンなどとも言われているが実態とはかけ離れている。母親も仕事につかざるをえない経済状況にある家庭が増加していることへの理解や、ベビーカー使用の際などに社会的配慮の欠如が少なくない。第3に、子育ての経験知が引き繋がれていない。特に乳幼児を持つ母親と父親の親との関係がうまくいっていないことが多い。「道端の草にも嫌われる2才児」と言う諺があるが、やり過ごせば済むことだ。第4に、「大人に成りきれない」世代が子育てをしている。乳幼児などが周りに殆どいない環境で生活してきたため子どもへの接し方が分からない親達が、30才前後に多い。子ども会での経験を持つ者も少ない。
2012年に文科省が示した報告書「つながりが創る豊かな家庭教育」は、家庭における親の教育力の低下に言及した上で、様々な家族を導く地域社会を創ろうという内容になっている。子育て支援の場として地域には、子育て支援センター、子育てサロン、子育て広場などがあるが、3才以上の子どもを持つ親は行きづらいようだ。
私達が1995年に始めた「さっぽろ子育てネットワーク」について紹介する。「親育て」ではなく「親育ち」をテーマにしたのは、他力ではなく自力で親になることを考えてもらいたいという意味で使っており、様々な年令からなる個人会員200名と異業種による30の団体会員で構成されている。最近は「聞いて話して私の子育て」というサロンの開催やネットワーク事業として「さっぽろ子育て支援を考える会」の運営などを行い、子育て支援団体を応援しスタッフの力量を高めたり、子どもや親に関する理解を共有し子育て支援の質を高める活動をしている。近頃は軽度発達障害の子どもを抱える親が増加し、家庭に来て欲しいという要望が増えているが、スタッフも限られており支援方法を検討している。
実践している「親育ち」のプロセスは、子育て仲間と共にイベントを企画、運営したり、他団体と交流する中で社会とつながる経験を積んで貰う。また、他の人の子どもを一緒に面倒見ることにより客観的に我が子と接することができるようになって、親であることを自覚し我が子の子育てに責任が持てるように導く。活動当初は、カナダの子育て支援から多くのことを学んだ。カナダに視察に行かれた先生に書籍を買ってきて貰い、その本を訳しながら実践して行った。その本の中に書かれていた「完璧な親なんていない」という言葉に若い母親達が引き付けられ、助けてと言っても大丈夫なんだという安心感を得ていた。カナダは多民族国家で貧困層も多いので、外に出向いての支援が多い。
「子どもひとりを育てるには村中の人が必要」というアフリカの諺があるが、子育てを地域ぐるみで行おうとするもので、私の好きな言葉である。また、家庭や学校、職場などは逃れられない「きつい関係」の居場所だが、子ども食堂やコミュニティーレストランなど「ナナメの関係」の環境でも人は育つ。自立支援センターなども含めて横に繋がり、様々な人々がごちゃまぜに集う居場所を地域に増やすことにより、家族も内向きにならず学校や職場でも頑張れるようになるのではないか。(平成30年6月2日開催)
□ディスカッション
参加者:父親はどんな役割を果たしたらよいのか。
講 師:子どもが思春期に相談したいのが父親。子どもに接することで父親になって行く。
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