北海道人格教育ニュース 第17号 2018年12月発行
第4回北海道人格教育セミナー(要旨)
地域で取り組む人格教育
山谷 敬三郎(北翔大学学長、本会会長)
講演内容を大きく2つに分ける。前半は近年減少している子ども自身が日常生活の中で良さや可能性を育てる機会について、後半はそうした子どもに対して日常生活の中での大人の関わり方を紹介し、皆さんの参考にしていただければと思う。
前半については、代表的なものが5つある。その第1は、同一視(同一化ともいう)である。子どもが児童期までの時期に、無意識のうちに抱く同性の親に対する劣等感の克服を通して、その親の考え方、生き方を身につける精神作用のこと。しかし、現代社会では、同一視の対象がテレビ、ネットなどバーチャルな世界に登場するアンチヒーローなどに求めることが可能になっており、宮崎勤のような者も表れてしまう。
第2は、条件付け。これには2つあり、古典的条件付けは、パブロフの犬の実験で知られているが、受け身なことが特徴だ。これに対しオペラント条件付けは、自発的行動により報酬が得られること。叱責と罰及び賞賛と報酬の組み合わせにより子どもの欲求や感情をコントロールするのだが、大人の都合により誤った条件付けをしてしまうことがあるので注意がいる。
第3は、模倣(モデリング)。私の友人で短期大学の学長をしているA氏が「今の子どもはいとこの数が少なくなっている。」と言っていた。私が教えている学生70名に聞くと、いとこがいない者が2名いた。いとこは良い意味でのモデリングの対象にも、逆に反面教師的な意味でのモデリングの対象にもなる。一人っ子の場合は、モデリングの対象を持たずに育ってきていることが多く、親のしつけ以外に子ども自身が自然と身に着けられることが今は少なくなってきていることを理解した上で対応する必要がある。
第4は、同化と調整。同化は、外界の対象を自分に合うように変化させて自分の内部に取り込む作用。調整は、外界の対象に対して自分の方を修正して取り組む作用で、目からウロコが落ちる体験などが挙げられる。子どもに感動体験をさせていくと同化と調整が上手にできるようになる。しかし、コンピューターなどの利用の仕方によっては、現実無視の考え方につながることに留意する必要がある。
第5は、役割取得。人間は役割に応えようとして自分を成長させる。今の子どもはおままごとやごっこ遊びを殆どしなくなり、そのような機会を失いつつある。ベイトソンは、同一人物からの正反対の評価によって子供などの成長を阻害する二重拘束説をとなえている。先生と母親から違う期待が寄せられる役割間葛藤もあるが、子どもは学級や学校で担う役割によって、バランスの取れた人間として成長することが期待されている。
次に、こうした地域社会の状況の下で、良さや可能性を育む大人のかかわり方について提案したいと思う。1つ目は、活動や努力を認めること。自己肯定感や自尊感情を育てることだが、そのためには成就感や達成感を味わわせることだ。子どもの能力を見極め、その努力を認めることで、自分に自信が持てるようになる。2つ目は、応答性のある環境にすること。思考は、自分の頭の中で問いかけと答えを出すことを繰り返すことと言えるが、対話は2人以上の間で思考が行われることと考えられる。子ども達の様々な問いかけに誠実に答えることで主体的学習や継続する学習態度の基礎が培われる。3つ目は、夢や希望を個性に結び付けること。子どもの夢や希望を具体的な職業に結び付け、応援してあげることにより不安や困難に立ち向かって努力する姿勢が培われる。4つ目は、言葉遣いを大切にすること。少しでも長い言葉でコミュニケーションを図る努力を重ねることで、物事を理性的に判断する能力を養うことができる。5つ目は、思いや気持ちを汲み取ること。他人に対する優しさは自分の気持ちが理解されるところから生まれる。子ども達に自分の気持ちが理解されて嬉しいという体験を多く積ませてあげることで、社会的共感性や奉仕の精神などの基本的な姿勢が養われる。以上のようなかかわり方が大切ではないだろうか。
(平成30年11月10日開催)
□ラウンドテーブルでの意見(抜粋)
1グループー北海道においてモデリングできる企業が数多く出てきて欲しい。
2グループー子どものいない所で夫婦の考えを共有する話し合いをするのが大切だ。
3グループー今ゲームに親しんでいる子ども達が親になった時はどんな世の中になるのか。
4グループー町内会も含め地域との関わりを大事にする子育てを考えたい。
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