北海道人格教育ニュース 第21号 2019年12月発行
第5回北海道人格教育セミナー(要旨)
家庭を取り巻く変化と私たちの社会
加藤 隆(名寄市立大学教授、本会副会長)
大草原の小さな家というドラマが始まったのは1975年ですが、日本でも上映され、何度もリバイバルされ長く愛されています。このドラマは、米国の1890年代西部開拓期を扱っていて、上映が開始されたた1970年代後半は、同国では個人主義の行き過ぎから家庭の見直しが始まった時期と重なり、大きな共感を呼びました。
このドラマの主人公ローラが生まれた1867年頃を時代背景に、日本では森鷗外が『渋江抽斎』という江戸時代末期に生きた弘前藩の侍医をモデルにした小説を書きました。この作品から同時代の家族模様を見ることができます。当時は、多産多死であり、取り上げ親、名付け親など仮親という血縁によらない機能別親子関係があって、親代わりになる人々が周りにいました。また、日本に滞在した外国人共通の感想として当時の日本人はみんな貧乏だったが明るかったと述べています。さらに、家内工業が多く、子どもの目に父親、母親の背中がありました。OECDがまとめた平均寿命によると1900年頃の日本は44歳で、米国でも47歳で、子どもを育て終わると殆ど亡くなるという社会でした。
次に、今の家庭の状況を象徴するものとして、先日NHKで放映されたクロ-ズアップ現代を取り上げます。ここではハーバード大学と福井大学の研究に基づき、夫婦喧嘩が子どもの脳に与える影響を紹介していました。これらの大学の研究によると、身体的暴力を受けた子どもの脳よりも、言葉による暴言を受けた脳の方が萎縮率は数倍高く、日常的に暴言を受け続けると海馬や偏桃体に悪影響が出て、記憶力や学習能力も低下する、という報告がされていました。聖書には「口から入ってくるものは、みな腹の中に入り、そして、外に出て行くことを知らないのか。しかし、口から出て行くものは、心の中から出てくるのであって、それが人を汚すのである。」という言葉があります。「家庭は愛の学校」というとき、私には「家庭は言葉を育ませる苗床」に思えます。しかし、現在は、言葉がとても貧困です。米国の同時多発テロで10歳の息子を亡くした女性が残した「最後だとわかっていたら」という詩が、世界中に配信され感動を与えました。この詩は、明日が来なくても後悔しない生き方を詩っています。
苦悩と苦痛について考えてみたいと思います。苦痛は治癒したり緩和したりすることができ、問題解決型アプローチが可能ですが、苦悩は治癒したり緩和したりすることができない、寄り添い型アプローチが必要なものと捉えることができます。先程の映像で夫が誰のお陰で生活できているのか、と暴言を吐いていましたが、深く隠れている部分を見ていないのではないか。人間には外に表れない精神的な部分があり、これに対応するのが言葉ではないでしょうか。言霊といわれるように、言葉は本来力を持っています。言葉を豊かにしていく必要があるのではないでしょうか。また、無言で伝わるものがありますし、心の中で祈っている人もいます。
さて、今日本では、50秒に1組が結婚し、2分25秒に1組が離婚しています。1930年の出生率は4,7人で、平均寿命は44歳でしたが、2004年には同1,29人、同82歳になっています。2040年には日本の高齢化率のピークを迎え、北海道でも65歳以上が半数を占める市町村が続出すると言われています。国立人口問題研究所が行った結婚に関する調査結果では、結婚する意志を持つ未婚者は9割で、結婚に求めていることとして、子どもや家庭を持てることや、精神的な安らぎの場が得られることの2項目がダントツに多くなっています。しかし、若者はそうではない現実があるのを感じているのではないかと思います。
先程のTV番組では、萎縮した脳の改善プログラムも紹介されています。福井大学が取り組んでいる方法は、子どもの長所を認めてほめることや、子どもの言葉を繰り返してあげ、受け止めてあげることなどが効果があるとしていて、大人の脳でも回復すると報告されています。もし、夫婦喧嘩をしたときは、後で仲直りしたことを伝え、その姿を見せ、喧嘩は子どもが原因ではないことを伝えることが大切です。
道元の言葉に「目の前に置かれた食事が出来上がってくるまでの手数を考え、その食事を受けるに足る正しい行いができているか、自己を省みながら食せ」とするものがあります。また、アドラーは、人間は弱くて限界のある存在ですべての人の協力で毎日の生活が成り立っている、という共同体感覚の重要性を述べています。つまり、社会を大きな家庭として捉えることが大切だと思います。(令和元年11月9日開催)
□ディスカッション
A班-小さな社会の家庭では、言葉の影響力が大きいので、言葉を大切にしたいと思います。
B班-夫婦で子どものプラスになるコミュニケーションを心がけましょう。
C班-幼児教育がとても大事ですので、子どもに寄り添うように心がけるべきです。
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