北海道人格教育ニュース 第19号 2019年6月発行
第6回北海道人格教育フォーラム(要旨)
子どもの情動と愛着問題
(北海道教育大学教職大学院教授)
15年ほど前、こちらの前身の会で今どきの子どもについて話をしたが、子どもの状況はその当時より悪化している。文科省は当時発達障害は6、5%(40人学級に2,3人)いるとしていたが、現在では40人学級に5、6人、多い学級では10人位いると知人の教師が話していた。これは発達障害もどきが増えたということであり、愛着の問題が深く関わっている。
まず、ルーマニアの独裁者チャウシェスクが行った人口増計画の悲劇を紹介する。この計画で子どもは増加したが、親が貧しく育てられず施設に預けられる子どもが増え過ぎ、施設の職員が機械的に育ててしまった結果、社会的な触れ合いが欠如し、情動症を示したり、全く言葉を発しない子どもが多数生じた。政権崩壊後、里親に引き取られた子も多かったが、こうした子どもなどを対象に調査した米国のフォックス教授の報告がある。里親開始時期による比較調査では、2歳以上で里親に行った子どもはIQが80を超えることはないが、1歳6か月までの子どもは95まで戻ることから、1歳6か月位が臨界期であることが判明した。その際の養育は特定の人が行うことが重要であることも分かってきた。
また、英国の精神科医マイケルラターによる引き取った111人の子どもの調査では、4歳の時点で約6%の子どもに「自閉症に類似の症状」が見られ、さらに約6%に「軽度の自閉症的傾向」見られた。ところが、2年後にはその症状が改善し、とりわけ2歳前に養子になったケースでが顕著な改善が見られた。このことから発達障害は後天的で、愛着の問題で自閉症のようになってしまうので、改善も十分可能であることが分かった。同じくスピッツによる調査では、第2次世界大戦後施設に預けられた子どもは十分な栄養が与えられたにもかかわらず、その3分の1が死亡したが、刑務所の育児室で母親に育てられた子どもは死亡せず、ほぼ健康に育った。これも特定の人による養育の大切さを裏付けている。
小児科医の杉山登志郎氏は、発達障害の新分類として第4グループに「子ども虐待」を提示している。通常、前頭葉が情動をコントロールするが、虐待を受けると前頭葉の血流が悪くなり成長が遅れ情動のコントロールができなり、自閉症の症状を示すようになる。
英国の心理学者バロンコーエンは、他者の指差し・視線理解などの「共同注意行動」が幼児期大切であるとしている。赤ちゃんの視力は0,1~0,2だが、相手の目の動きに注目し、自分を見ているかどうか分かるので、親の視線を確認し親と関心を共有したいと願う。また、ヘレンケラーの例にあるように指差し行動が言語の発達に重要な働きをしている。最近、共感性の伝達物質としてオキシトシンが示さていれるが、家庭愛を守るため重要であることが分かってきた。ケイタイやスマホ中心の生活をしている若い母親に対しては特に子どもへの言葉がけをするよう話している。
コミュニケーションの重要性、つまり視線を合わせることの意味について参考となる佐賀市の例を紹介する。目を合わせない自閉症の子どもに月3回トレーニングを施し、一瞬でも目が合った時などに褒めて行くと、6か月でかなり目を合わせられるようになり、改善される。これはESDM療法の1つとされているが、米国コニー・キャサリー教授が提唱したJA/SP/E/R(ジャスパー)も同様である。こうした方法には、ちょうど鏡に映したように、自分がある行為をしても、他者が同じ行為をするのを見ても活動するミラーニューロンの発見が大きく寄与している。我々人間には本来的に互いの身体と身体が共振すると同時に、その時の気持ちも同時に共鳴するような能力が備わっている、と「そだちの科学」の中で小林、大久保両氏が述べている。感情とは、本質的に心による身体状態の読み取りである(アントニオ・ダマシオ)。楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しいのである(ウィリアム・ジェームズ)。幼児は片言、表情、見振りで自然に触れあいを求め、それに対して大人も同じように応じる「サーブ&リターン」のふれあいが健康な脳回路を形成する。
「ゲーム脳」については、2002年に森昭雄氏が紹介したが、今年WHOでは「ゲーム障害」を初めて精神疾患と認定した。この定義は、ゲームをする時間や頻度を自分で制御できず、日常生活に支障をきたす状態をいう。前頭前野を含む大脳皮質(考える脳)は、大脳辺縁系(情動、感情、記憶)をコントロールする機能があるが、ゲームなどをし過ぎることにより働かなくなることが分かってきた。長くゲームをすると前頭前野の血流が悪くなり、やめても血流が元に戻らなくなる。読書をすると前頭前野が活発に活動する。ネット依存を防ぐためには、早い段階でルールを決めることが大切である。(令和元年6月1日開催)
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