北海道人格教育ニュース 第3号2015年6月発行

第2回北海道人格教育講演会(要旨)

21世紀型学力と心の教育

                                     (北海道大学高等教育推進機構教授)

 本日は、変化する世界の学力観を概観する中で日本はどのような道を進むべきかについて1つの考え方を示し、また心の教育では私が大学で実践している中から一部を紹介する。

まず、これからの学力観を見定めるために10年後の世界を考えてみたい。OECDが調査した21世紀の社会の特徴を示すグラフは、社会が複雑化し「解」のない世界に突入することを示している。また、世界人口が80億を突破しての食糧危機、ナショナリズムの台頭や国際秩序の崩壊による予想外の危機、そして圧倒的な医療革命が予想される。この時に必要な能力は何か。

そこで、今求められている能力・資質について考えたい。日本では、2005年に本田由紀さんがポスト近代型能力として生きる力(問題解決能力)、創造性、ネットワーク能力・交渉力などを提示し企業などにもインパクトを与えた。欧米では、2003年にOECDのDeSeCoプロジェクトが打ち出したKey Competencies(主要な能力・資質)がある。コンピテンスとして自立的に活動する力、相互作用的に道具(知識・情報・技術)を用いる力、異質な集団で交流する力を重視している。これは1960年代から始まる米国の教育改革で、最先端を行く医学教育カリキュラム改革で示されたコンピテンス基盤型カリキュラムの考え方がベースになっている。また、米国では2000年から人材像・到達点を予め設定し、その実現へ各要素をブレークダウンするOutcome basedカリキュラムも推進されている。このコンピテンスの考え方を取り入れて成果を上げ、PISA(OECDが実施した国際学力調査)で好成績を示したフィンランドが世界から注目を浴びるようになった。コンピテンスの考え方はドイツ、フランスも取り入れており、日本の次期学習指導要領にも取り入れられていると言われている

では、フィンランドで行われている教育はどのようなものだろうか。自己実現を目指す国のため、幼稚園の段階から留年があるが誰も恥とはしていない。同国はヘックマンの理論に基づき幼児期の教育により多くの投資をしており、5人の幼児を3人で教える体制を採っている。中学を卒業するまでに4カ国語が話せるように語学教育に力を入れている。また、試験問題を見ればその国がどのような能力を求めているかが分かると言われるが、大学入学試験などを見ると9割以上が論述問題である。この国が21世紀に求められる力としているのは、基礎的な知識の獲得と理解、論理的思考力・批判的思考力、倫理(心)、問題解決能力、ティームワーク力などである。さらに同国が目指すコンピテンスには多様なことが考えられること、枠や壁を越えて考えられること、そしてどのように学ぶかを考えられること、などが掲げられている。

次に、フィンランドにみる心の教育から1例紹介する。中学の理科教科書にはダウン症の子どもの写真を堂々と掲載していて、説明文には「彼らは普通に幸せそうであり、元気であり、性格も温厚である」とあり、こうした所にこの国の教育理念が表わされている。

 私は、大学では蛙学を担当しているが、学生たちには小学校を借り切って放課後に授業をさせている。また、解剖実習をする前に生命観の育成を心がけ、なぜ実験・観察が必要か、尊い生命を犠牲にすることへの謙虚な心の姿勢を指導する。その結果、学生たちは解剖実習の際には自然と蛙に手を合わせるようになり、動物の慰霊碑に献花もする。

 最後にこれからの日本の教育に何が必要か考えてみたい。私は2つの疑問を持っている。第1にOECD-PISA型学力は、真の日本の学力を測定しているのだろうか。第2に教育は文化(心)であり、それに根ざした理念(羅針盤)は必要ないか。私は、日本の教育は決して劣ってはいないと思う。学習内容は高度であり、教材のレベルは世界トップクラスである。ただ、様々な研究会があり盛んに行われているが、点在していてつながりがない。これが、ある理念のもとに「面」になれば素晴らしいものになる。最も必要なことは、21世紀を担う日本の児童生徒が具備すべき能力・資質についての明確な理念を定めることであり、その理念を達成するための具体的目標、目標をクリアするための効率的な戦略を確立することである。日本には素晴らしい文化がたくさんある。日本の伝統・文化に則った学力観が必要ではないか。

第1回北海道人格教育セミナーのご案内

テーマ:「親の意識をどう向上させるか」

講 師:山谷 敬三郎(北翔大学教授、学長補佐)

    講演後、小グループのオフサイトミーティング

日 時:平成27年7月25日(土)午後1:30~3:30

会 場:かでる2・7 1060会議室

参加費:会員500円、一般1000円

□今後の予定 

・11月7日(土) シンポジウム

 ・平成28年2月  フォーラム 

北海道人格教育協議会

教育の目的は、教育基本法の第一条にあるとおり、「人格の完成」にあります。子どもたちの豊かな未来、幸せな未来のために、家庭・学校・地域社会が連携しながら役割を果たすことができるように、「人格教育」とは何かを考え、実践していきたいと思います。

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