北海道人格教育ニュース第5号 2015年12月発行
第1回北海道人格教育シンポジウム 基調講演(要旨)
道徳の教科化について
(北翔大学教授)
子どもが変化してきている具体例を紹介する。最近の赤ちゃんは、こんにちは赤ちゃんに始まったとされる長調の曲を普段から聞いているため短調の「子守唄」を聞くと泣く。小学生では、コンビニ食材を使用する家庭が増えてきていることもあり、宮沢賢治原作の「雪わたり」の場面の意味が理解できないため、この題材で感謝などの価値項目に迫るのは難しくなった。大学生は、私が中学校道徳教材「一枚のはがき」を講義で取り上げた際に、礼状を書くという経験のない学生が殆どということもあって、大多数がこの教材は授業では使えないという反応を示す。
「第2期教育振興基本計画」から、政府はわが国の現状をどのように捉えているのか見ていく。ここではわが国の危機的状況や強みを整理した上で、今後の社会の方向性として創造・自立・協働の3つのキーワードを示した。学習指導要領の変遷を見ると、昭和22年に試案が出された後その時々の社会の変化を受け、新しい時代に必要とされる資質や能力を育成すべく10年おきに6回改訂されている。ところで2011年にデューク大学のデビットソン教授が「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもの65%は大学卒業時に今存在していない職業に就くだろう」と語ったことが大きな波紋を呼んだ。日本でも昭和45年の朝日新聞の調査では、なりたい職業のベスト5として1位から順位にエンジニア、プロ野球の選手、サラリーマン、パイロット、電気技師が上がったが、43年後(平成25年)の調査では順にサッカー選手、プロ野球の選手、医師、バスケットボールの選手、ゲームクリエーターとなり、同じものは1つしか残っていない。つまり子ども達は大学を卒業するまでにこうした変化に対応できる能力を身につけていなければならないということだ。
現在、中教審で検討されている教育課程の構造化イメージ図で気になることがある。それは生産年齢人口の減少であり、こうした状況を克服すべく創造・自立・協働のキーワードが登場し、新しい時代に必要となる資質・能力として主体的に取り組もうとする意欲や多様性を尊重する態度、コミュニケーションの能力など゙5項目を示した。また、上記の資質・能力育成のため教科・科目などの新設や見直しが要請されており、道徳の教科化もその一貫である。その上で文科省は学習指導要領を新しい観点で構造化しようとしている。ポイントは3つあると思う。1つは子どもの側の論理に立っていること。2つ目は実社会において横断的・総合的な問題解決に取り組む態度や自己の責任や役割を果たす態度を育成しようとしていること。3つ目は道徳教育がベースになっていることだ。これらのことから特別な教科、道徳の意義が改めて確認できるのではないか。
道徳を具体的にどのように改善していくかについては平成26年に答申が出されている。その中では「時には悩み、葛藤しつつ、考えを深め」がキーワードと考える。また、これまでの道徳の指導が全体としては不十分であるとして、4つの視点の順序を入れ替え、C:社会や集団に関すること、D:生命や自然、崇高なものに関することの順にすることや、正直、誠実などの内容項目を明示し、親切、思いやりの項目ではいじめ問題を指導するよう示した。さらに情報モラルや生命倫理などの指導充実を求めている。今年3月には道徳教育の抜本的改善・充実の方針として、検定教科書を導入することや「考え、議論する」道徳科へ転換することなどの方針を明示した。こうした方向性は文科省が示すカリキュラム・デザインのメタ認知力(どのように省察し学ぶか)の育成に位置づけられる。
研究発表1(要旨)
生徒に対して抱く感情変容と指導態度の関連について
(札幌科学技術専門学校高等課程教諭、北翔大学大学院生)
今回調査研究の対象とした専修学校高等課程には、全国の中学校卒業者の0.8%が進学している。在籍している生徒の背景としては経済的に厳しい、あるいは母子・父子家庭などの複雑な家庭環境を抱えている割合が一般の高校より高いという特徴がある。研究の背景は、専修学校高等課程では生徒指導面での対応に苦慮し、教師間や管理職との軋轢など強いストレスに曝され、疲労感を感じバーンアウトしていく教師がいる現状などからである。研究の目的は、高等課程の生徒指導に関する実態を明らかにし、生徒を指導する際の教師の感情変容と指導態度の関連を明らかにすること。次に、高等課程の特性を踏まえた生徒指導のための校内体制や教師個人への関与のあり方を提言することである。
調査は商業系と工業系の専修学校それぞれ1校ずつに協力して貰い、今年2月に事前調査を、5月から7月にかけて本調査を実施した。その結果、指導体制の基盤となる職員相互の協働する姿勢は見られるが、研修や予防的な指導体制の構築が必要であること、教師個人に対する関りの内容が示唆され、チームによる援助体制が必要であることなどが明らかになった。むすびとして、「チーム学校」の視点から、専修学校高等課程に相応しい生徒指導の校内支援体制や個々の教師に対するサポートのあり方を整理し、学校組織の一つとしてこれらを位置づけ、実践できる環境を作ることを提言したい。
研究発表2(要旨)
道徳科で目指す「想創の学び」
(北海道道徳教育研究会研究部長、北海道教育大学附属札幌小学校教諭)
考え、議論する道徳の授業とはどんなものか、について私見を踏まえて発表したい。本校は、平成26年度から「想創の学び」を築くべく取り組んでいる。想像力は他者を理解するイメージ力として捉え、創造力は新しいものを創りあげる力として捉え学びを進めている。具体的な授業は3時間をユニットとした主題構成で自己を見つめ、生き方についての考え深めるよう、あるいは物事を多面的・多角的に考えるよう留意している。北海道の各地域においては「受容と磨き合い=しなやかな心」をキャッチフレーズに取り組んで頂いている。命の大切さ、いじめへの対応についても1つのユニットとして授業を行っている。
今、話題となっている評価は、現行どおり数値による評価は行わず、所見による評価になる。それは分かちがたい人格を価値項目ごとに分けて評価できないからである。私は昨年からの持ち上がりで現在小学2年生を担任しているが、道徳のノートを活用しながら考え、議論する道徳の授業に取り組んでいる。
研究発表3(要旨)
プロジェクト手法が及ぼす看護学生の自己肯定感の縦断的変化
(文教大学非常勤講師、北翔大学大学院生)
今回の研究の目的は、学級経営の中でプロジェクト手法(学習者が何のために何をやり遂げるのかを明確にする教育手法)及びポートフォリオ(学習者の努力、進歩、達成を目的的に示し、集積した1冊のファイル)を取り入れ、看護学生の自己肯定感・自尊感情の変化を、自己肯定意識尺度、自尊感情尺度を用いて縦断的に調査・分析し、望ましい変化が見られるのか検証しようとするものである。
調査は、看護専門学校で平成26年度入学者40名(実験群)を対象に1年間かけ上記の手法で実施し、平成22年度入学者(統制群)で通常に実施したものとを比較し分析した。結果は、プロジェクト手法を用いた実験群は、用いていない統制群に対して、自尊感情尺度の小項目において、より望ましい変化を示した。また、統制群は6項目中3項目にしか望ましい変化がなかったのに対し、実験群は6項目中5項目に望ましい変化を示した。
0コメント