北海道人格教育ニュース第6号 2016年3月発行

第2回北海道人格教育フォーラム(要旨)

いじめ問題の背景とその対応

                                         (北海道教育大学大学院教授)

 いじめの背景からお話させて頂く。1998年総務省が実施したいじめに関する調査によると、小学生はいじめている人を注意した、先生に話したなどの割合が中学生より多く、逆に中学生は何もしなかった割合が高い。一方、本学の学生が作成したアンケートの項目は、中学校の先生からいじめについて見聞きした事柄を挙げてもらい作成したため「授業中おかしな発言(発表)をしたので、それを話題にして笑った」などより具体的な項目が並んでいる。これを使ってある高校で調査してみたところ、どの項目でも高校時代より中学時代の方がよりいじめを受けた経験のある割合が高く、様々な調査から中学生にいじめ問題が最も多いことが分った。その理由の1つとして小学生は自分を守る壁が少ないが、中学生になると「私」というものができ自分を守るようになるためではないか、またいじめを注意すると逆に自分がいじめられることを恐れ、見てみぬ振りをするようになるのではないかと思われる。高校生になると道徳性と自己意識の葛藤が始まり、人間は多様なものと考える意識も芽生える。私は、人は多様であることを認識し、その多様性に耳を傾けることがいじめの種をなくすことではないかと考えている。また、小中高校でスクールカウンセラーをしているが、相談内容は男子は成績、女子は対人関係が多い。

 次に、いじめについての国際比較をした調査によると、いじめを注意したことがない割合は、日本41%、韓国18%、米国28%で、いじめの相談に乗ってあげた割合では日本は米国の半分である。また、同じような国際調査で日本の子どもは、自己評価が非常に低いという統計がある。つまり、日本の子どもは自分に自信が持てないため、他人がどう思うかについて過敏になり、自分の価値判断で一歩前へ出ることができないのではないか。

最近の文科省のいじめの定義は、本人がいじめられたと思ったらそれはいじめである、とされている。先程の中学校の先生から挙げてもらい作成したアンケートを、いじめ問題の調査で訪ねて来た中学生に見せたところ「これだったらいくらでもある。いじめられている方も悪いですよね。」と言った。確かにこれは本音であるが、ここに本質的な問題が隠されていると思う。一般的にいじめられた側には記憶が残っていても、いじめた側にはその認識がないことが多い。そのため両者を向かい合わせて謝らせても旨くいかないことが多い。また、いじめられないためにいじめるケース、あるいはいじめをする子どもの母親がその子どもを虐待しいて、その母親は夫から、その夫はさらに父親から虐待を受けていたといういじめの連鎖の例もあり、いじめの問題は複雑である。

 では、いじめは人のこころにどのような影響を与えるのか。同じ体験をしても子どもの受け取り方は様々で、いじめと受け取るも子どももあり、受け取らない子どももいる。この場合受け取り方が悪い子どもがいても、その子どもが悪いとはしないのが文科省の定義である。中には小学生でいじめを受けても中学生になって楽しい体験を経ることにより、いじめを受けたことを忘れるという上書き現象が起こることがある。逆にいじめの経験が強いトラウマになり解離症状、回避症状、摂食障害を起こす人がいる。心的外傷が激しかったケースでは、いじめを受けてから5年後にPTSTを発症し、記憶障害を起こすということもあった。また、発達障害の人は、忘れていたいじめの記憶がフラッシュバックすることが多い。さらに、統合失調症を発症したり、自殺に至る深刻なものもある。

 私は、子ともの中の格差がいじめを生む原因になっているのではないかと思う。では、いじめが起こった場合の対処方法について考えてみたい。第1は、身近な人に話を聞いてもらうことである。友達、親、先生(養護教諭)などであるが、中学生は誰にも悩みを話さない割合が半数を超え、仮に打ち明けられても聞かなかった振りをする。そのため授業の中に人の話を聞くロールプレイを取り入れた学校もある。内閣府のHPにも人の話を聞くロールプレイが紹介されている。次の段階は、カウンセラーに話を聞いてもらうことである。カウンセラーは、子どもが親や先生に相談するように導いていく。第3段階としては、トラウマに特化した治療を受けること。性虐待や性被害を受けた子どもに対して、相談された親が受けとめてあげなかった場合などは、被害を受けたことより親に受けとめてもらえなかったことが本人のトラウマとなってしまう。(平成28年2月20日)




北海道人格教育協議会

教育の目的は、教育基本法の第一条にあるとおり、「人格の完成」にあります。子どもたちの豊かな未来、幸せな未来のために、家庭・学校・地域社会が連携しながら役割を果たすことができるように、「人格教育」とは何かを考え、実践していきたいと思います。

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