北海道人格教育ニュース8号 2016年9月発行

第2回北海道人格教育セミナー(要旨)

前近代が教えてくれる人間教育

                           加藤 隆(名寄市立大学教授)

 前近代は、日本で言えば江戸時代以前から明治初期を指すが、近代になって子どもが最も変貌したのは、私は子どもの姿勢ではないかと思う。明治期には教育者森信三が立腰教育を提唱し普及を図っている。立腰については「人間に性根を入れる極秘伝」、「この一事をわが子にしつけ得たら、親としてわが子への最大の贈り物といってよい」と森は述べている。躾という漢字は身が美しいと書き、姿勢が美しいことは精神的、健康的にも良いのではないか。また、「武士の娘」の著者である明治6年生まれの杉本鉞子は、米国コロンビア大学で初の日本人講師となっているが、6歳の頃2時間の素読の間で僅かに姿勢を崩しただけで師匠から叱責された、ことを著書で紹介している。

 日本の教育文化は、古来より型を重視してきた。字を書く時やお茶を立てる折りなどにもその際の姿勢を重んじてきた。日本最古の能の教育書と言われている「花伝書」でも学びの型、順序性が美しさにつながるとしている。素読については、日本語を声に出して読むことを奨励している斉藤孝さんが、最近出版した「語彙力こそが教養である」の中で近年の日本人の語彙力低下の原因が「素読文化」の減衰にあると語っている。こうしたことから近頃は素読を実践する団体も増加している。

 次に、変貌してきたと思われるのは前段ともつながるが声に出す文化の衰退である。「山のあなた」という詩は声に出して読むと、とてもリズムがあって味わい深い。また、松下村塾では、答えのないテーマについて松陰も入って大いにディスカッションをした。内村鑑三が学んだ札幌農学校でも同様な状況であったと思われる。今で言う白熱教室であるが、現在日本でこうしたディスカッションを取り入れている学校は殆どない。

 3点目は、ごちゃまぜ文化の変貌である。前近代は、親についても帯親、取り上げ親、抱き親など30種類ほどの親の形態があり、1人の成長に様々な形で関っていた。中でも「換え子親」は互いの子どもを換えて育て、村の子ども全てをわが子のように育てていた。寺子屋の絵を見ると教わっている子どもの年齢や教えられている内容が違っているが、共に同じ場で学んでいる。豊後(大分県)には広瀬淡窓が主宰した日本で最大の全寮制の私塾「感宜園」があり、高野長英など4000人以上を輩出するが、ここでは様々な階層から幅広い年齢の塾生が生活を共にしていた。同じ頃(19世紀初頭)のイギリスのモデル小学校の絵では、1クラス365人の子どもが整然と並ばされ、先生と監視役によって指導されていて寺子屋とは対称的な様子が分る。

 価値基準についてみると、前近代は他人の課題と自分の課題を分けない渾然一体となった文化、いわゆる寅さん文化ではないか。これに対して近代では、他人と自分の課題を分ける文化、すなわち他人の考えを尊重するから口を出さない、などのように考える。また、近代の科学的手法は、小分けにした部門の専門性を深める分析知を探求するが、前近代は、気配や一体感を重視する関係知に価値を置く。

 近代の手法に疑問を持ち、前近代的一体感を重視した「ごちゃまぜの街づくり」を推進している「シェア金沢」が先日TVで放映されていた。ここでは学生、高齢者、障害者などが様々に交流し、共に暮らす街づくりを推進しており、既に石川県には同様な街が20ヵ所も作られ大変注目されている。

 最後に、例えば太陽の光であるが、我々が浴びている光は8分前に発っした過去のものだ。オリオン座も500年前の姿を見ている。最近のネイチャーという雑誌には、人間に観測されるまで「現実は存在しない」ことが量子実験で確認される、とする記事が掲載されている。近代は私(人間)中心主義で進んできたが、果たして私(人間)は本当に基準に成り得るのか考えなければならないのではないか。(平成28年7月30日)

□オフサイトミーティイグでの意見(抜粋)

1グループ-形は心を整え、心は形に現れる」の如く、物・心・人間関係を整えるのが大切。

2グループ-親の保育参加などを通じ、保育士・幼児・親がごちゃまぜになるのも良い。

3グループ-音読を通して学級崩壊をくい止めた実例が紹介される。

第2回北海道人格教育シンポジウムのご案内

テーマ:「子どもの心を育むコーチング」

講 師:山谷 敬三郎(北翔大学教授、本会会長)

パネラー:学校・家庭・地域からそれぞれ1名

日 時:平成28年11月5日(土)午後1:30~4:00

会 場:かでる2・7  510会議室

参加費:会員500円、一般1000円                                   

□今後のスケジュール

・2月25日(土)  第3回フォーラム(日程が変更しました)            

・3月下旬    「教育と人格」第2号発行


北海道人格教育協議会

教育の目的は、教育基本法の第一条にあるとおり、「人格の完成」にあります。子どもたちの豊かな未来、幸せな未来のために、家庭・学校・地域社会が連携しながら役割を果たすことができるように、「人格教育」とは何かを考え、実践していきたいと思います。

0コメント

  • 1000 / 1000