北海道人格教育ニュース 9号2016年12月発行

第2回北海道人格教育シンポジウム 基調講演(要旨)

子どもの心を育むコーチング

                     山谷 敬三郎(北翔大学副学長、本会会長)

 私は、子どもが自ら問うことが本人の成長や発展にどれほど役立つかをテーマとして研究してきたが、その過程でコーチングに行き着いた。大学では90分の講義で15コマかけ解説する。今日は短時間ではあるが、皆さんの生活の中で役に立つよう紹介したい。

 「コ-チングは、問いかけることでそれぞれの人の潜在的な能力を最大限に発揮できるように支援することで、ソクラテスが2000年前に言いあらわしていたことである。彼の哲学がコーチングという姿で現代に舞い戻ってきた・・」と、1992年英国のジョン・ウィットマーが述べている。ソクラテスの問いかけはアポリア(行き詰まり)に導くという特徴があり、見過ごしていることを確認させ、子ども達の先入観を正し、正しい理解へ導いていく。

 コーチングが採用されるようになったきっかけは、スポ-ツの世界で一流選手がスランプから脱するのにかかる時間が短縮されたことによると言われている。コーチングの基本的な考え方は、指示命令型ではなく、問答技法を用いて協働で取り組むことである。

 コーチングの哲学(キーワード)は3つあり、第1は、人間観でクライエント(コーチングを受ける人)が自力解決し自己実現できるように援助することだ。具体的には、コーチングでは、人間が本来持っている可能性を最大限発揮できるよう援助すること。マクレガーの人間観(人間は本来勤勉な存在、性善説)に立っていること。マズローの欲求階層説を活用できること。人間が本来持っているレジリエンス(回復力)を発揮させること。

 第2は、可能性を信頼することで、クライエント自身に答えが存在することを信頼し、子ども達が自分の考え方を組み立てられるよう支援すること。詳細として①両者の価値観を明確にする②両者が解決の筋道をもつ③自分が囚われている感情、考え、欲求、行動、役割と距離をもつことができるよう支援する④バイオ・リアクション(上・下など二者択一の関係)から自由になる⑤今よりも良い方向へ向かうという気持ちをもたせる、など。

 第3は、心理社会的サポーターとしてクライエントと協働的な人間関係を築くこと。聞いて欲しい欲求が満たされていない社会であることの意味を再確認し、自分の話を真剣に聞いてもらっているという安心感を醸成する。具体的にはペーシング(頷きながら話を聞く)、キャリブレーション(相手の目の動きを確認しながら話を進める)を行う。

 次は、コーチング・フローの確立である。クライエントとコーチの間で次の①~⑤を協働で確認し、立案すること。①現在の状況(スタートライン)を明確化すること②望ましい状況を明確にすること③現状と望ましい状態とのギャップを生み出している理由と背景を発見し、確認すること④行動計画を立案し実践していくこと⑤クライエントの行動をフォローし、振り返り、励ますこと。

 最後に、コーチングにおいて問題解決を支援する5つのコア・スキルを紹介する。まず質問のスキルから紹介する。これはコーチングの最も重要なスキルで、拡大質問(開かれた問い)と特定質問(閉ざされた問い)の使い分け、Whyを使った否定質問をWhatを活用した肯定質問に代える工夫、イメージを持たせる未来質問と肯定的内容を中心とした過去質問を用いコミュニケーションを円滑に進めていく。傾聴のスキルは3段階ある。話し易い環境を作り評価せず「聞く」レベル、尋ねるつもりで聞き分ける「訊く」レベル、相手の感情、思考、意志を感じ取る「聴く」レベルがある。直感のスキルは、先回りしないで、子どもに考えさせ、問いを持たせ、不思議に思うことを言葉に発するよう促すこと。また、予測しないで自己理解を深め、促すための問いかけを用意する。さらに、リードせず答えを言わないで、クライエントの言葉を聴く姿勢を持つことである。確認のスキルは、その人にとって大切な未来(目標)、現在(スタート地点)、過去(可能性)を確認すること。自己管理のスキルは、頭と心と身体の自己管理だが、子どもに自立してもらうよう務めることが大切なので、コーチ自身がモデルになるつもりで取り組む。以上、概要を紹介したが、皆さんの生活の中で少しでも役立てて頂ければと思う。(平成28年11月5日)

パネルディスカッション 「こころの教育」(要旨)

                                    (札幌科学技術専門学校高等課程教諭)

私の勤務校は、中学卒業者の0.8%が進学してくる専門学校高等課程で、110名ほど在籍しているが、学業面でも対人関係でも様々な課題を抱えている生徒の割合が一般の高校より高い。私は、学びを通して心を豊かにすべく解かる授業、興味の持てる授業を心がけている。心の教育に関して実践していることを3点ほど紹介したい。本校は体験的な学習として実習を取り入れているが、モーターの仕組みを学ぶ実習で、信頼して助手を任せたらその生徒が活き活きと活動し、遅れている生徒を積極的にサポートした。次に、小学4年生を招き楽しんでもらう活動があり、生徒が作成したボードが好評のためPTAからインタビューを受けたうえ、翌年同じ活動を実施した際にも生徒たちは卒業していたが自主的に手伝いに来た。3つ目として総合的な学習の時間で、心理学を活用し人間関係のスキルを身につけさせようと取り組んだところ、今まですぐ切れていた子どもがきちんと話を聞けるようになったと親から連絡が入った。

                                         (札幌市PTA協議会副会長)

 私は、夫婦と子ども4人の6人家族で、現在白石中学校と第一高等学校のPTA会長をしている。家庭で心の教育を行うのは難しく、むしろ「躾」ではないか。各家庭の躾の内容はそれぞれ異なり、どのようにしたら良いか悩んでいる家庭もあることから、今日は躾の目安について提言したい。躾は道徳と違って教科書がないので、自分が受けてきたものや周囲で見聞きしたものを基にしている。始める時期は、ハイハイをし出した頃からではないか。しかし、20歳になったら法的には成人だが、ここで躾が終わるわけではない。また、不登校や引きこもりの原因は親の躾というより学校での様々な事象によるのではないか。勉強の目的も塾を主宰している高濱正伸さんが言うように自分で「メシが食える大人になる」ことではないだろうか。躾は、子どもが自分で判断できるようになれば終了する。本来子どもは、親の背中から学び取って成長して行くものだと思う。

                                        (興正学園副施設長)

興正学園は、児童擁護施設で建物を新築し、現在48名が生活している。今日は家庭をど

う支援するかについてお話する。母親が孤立し子育て支援のサポートが少ないため、平成

27年度中に約10万件の児童虐待が発生し、そのうち約7割は母親による。養護施設は虐

待を受けた子どもなどを受け入れるほか、こちらから出向いていって相談支援も行う。近

年、子どもの貧困や家庭での24時間育児による課題が深刻だ。子ども1人を育て上げるの

は大変なことだという価値観が必要だ。その家庭と心配なことが言える、聴ける関係や一

緒に作り上げる関係を築き、親が自分の人生を受け入れられるよう支援する。子どもは親

が自分に対し愛情をもってくれていることを認識することにより自信を持つ。そして、子

どもが結婚し自分の子どもを持ったとき、かつて自分が虐待された経験が甦ってきて子ど

もを虐待してしまう危険に遭遇するが、そうしたことも含めトータルな支援が必要だ。

質疑応答

質問:看護教育をする中で、ティーチングとコーチングをどう組み合わせたらいいか。

山谷講師:大まかには、基本的内容はティーチングで、気づきを促す所はコーチングで。


北海道人格教育協議会

教育の目的は、教育基本法の第一条にあるとおり、「人格の完成」にあります。子どもたちの豊かな未来、幸せな未来のために、家庭・学校・地域社会が連携しながら役割を果たすことができるように、「人格教育」とは何かを考え、実践していきたいと思います。

0コメント

  • 1000 / 1000