北海道人格教育ニュース10号 2017年3月発行

第3回北海道人格教育フォーラム 基調講演(要旨)

キャリア教育とこころの教育

                                          (札幌大谷大学教授)

 縁あって30年ほど前からキャリア教育に携わっているが、始めのころはよくキャリア教育って何ですかと問われ、殆ど認知されていなかった。キャリアは、狭義では職業、進路、経歴などを指すが、広義には仕事を含め人生そのものを言う。結論から述べると、大人は皆、人生の先輩としてキャリア教育に関心を持って頂きたい。これまでキャリア教育は、大学で教える必要があるのかと批判を受けたり、様々な誤解があったため、文科省は「生きる力」の理念を実現する視点から「一人ひとりの社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通してキャリア発達を促す教育」とした。

 近年、キャリア教育が重要視されるようになった背景は、第1には社会情勢や雇用環境が激変したことが挙げられる。オックスフォード大学のマイケル・オズボーン博士は、10年後にコンピュータに取って代わられ消える職業として電話オペレーター、銀行窓口係、レジ係など30数種類を挙げている。生き残る職業としても小学校の先生、内科医、カンウセラーなど多数例示したが、この報告から多くの示唆を得ることができる。2006年経産省が「社会人基礎力」を示し、その後様々な機関が相次いで「○○力」を提示、経団連の「新卒学生に求める能力」とするデータでは、13年連続でコミュニケーション能力が「選考時に重視する要素」のトップを占めている。このことは若者を追い詰める結果にもなっている。第2は、若者を取り巻く環境の変化・複雑化である。国際比較のデータでは、自分自身に満足している若者の割合は日本が45%に対し、韓国71%、米国86%と日本の若者は自己肯定感が低い。将来に希望があるかの国際比較でも日本61.6%、米国91.1%、スウェーデン90.8%と将来に不安を抱く割合が高い。さらに、学力格差、インセンティブ・ディバイド(意欲格差)、子どもの貧困、ひきこもりなどが深刻化している。

 こうした状況を打開すべく、キャリア教育は①能力・適性把握のための助言・指導・体験機会の提供②働くため、生きるために必要な知識や技能、社会情勢・産業・雇用動向等に関する情報提供③キャリア発達を踏まえて、身につけるべき能力の明確化と達成目標の設定

を行っている。留意すべき点としては、支えるべき場面なのか、指導すべき場面なのかよ

く見極めることや、大人や先輩が安易に無責任な助言をしないことなどで、子どもに未来の姿を見せてあげることである。

 今後のキャリア教育の方向性について紹介すると、プログラムとしては、インターンシップなどの職業統合型学習と教室内で行う課題解決型学習がある。次にシティズンシップ教育が挙げられるが、実社会の構成員として備えるべき能力を育成するものである。フィンランドやイギリスなどでは、幼少の頃から社会の一員であることを体感させる教育が施されている。

 また、地方創生が叫ばれるようになったが、この観点から代表的な例を取り上げる。私は「高校生はソーシャルキャピタル(社会的資源)に成り得ないか」をテーマとする道内高校生1700名を対象とする調査に関わり、鹿追高校を選んで直接生徒にインタビューした。その際、高校生が口々に親にではなく「地域(教委、役場)の○○さんにお世話になった。」と語ったことに衝撃を受けた。鹿追高校は1996年に廃校の危機を迎えたが、町は子どもの教育に投資することで乗り越えるべく舵を切った。施策として高校1年生全員を町費(自己負担2万円)で、提携のあるカナダにホームステイさせるために小中高校一貫教育を進めた結果、鹿追町に戻って働きたいという卒業生の割合が34%にまでなっている。

 海外からの話題を提供する。北イタリアのレッジョエミリアの取り組みだが、ここでは創設者ローリス・マラグッツイの理念のもと公立幼児学校を各地に設立し、アートを通した教育を展開している。人生の目的を持ち、自分の意見を持ち、周りの人に何かしてあげたいと思うよき市民を育てることを目的としたものである。市は予算の10%を幼児教育に、さらに市の予算の50%を教育に投資している。その結果、イタリアの失業率が12,6%であるのに対し、ここでは4,5%に止まっており、教育投資の効果の高さを実証している。

 これからのキャリア教育は、家庭・学校・地域が綿密に連携しながら、様々な角度から子どもを育てていくことが求められる。そして、最初に述べたように問われるのは大人の本気度だと思う。適切な助言を与えられる皆様になっていただきたい。(平成29年2月25日)

研究発表(要旨)

   学校不適応問題に対する教師の適切な関与について-対話的手法を用いて- 

                             (岩見沢市立小学校教諭)

 私は、普通学級6、特別支援学級3クラスで構成されている小学校に勤務しており、現在6年目だが、最近学校になじめない子が多くなってきているように感じている。

 この度の研究に当たって、学級づくりの面からと個人への支援の面から先行研究を調べてみた。その結果、「学校不適応」症状に悩む子どもに「対話」の手法を用いて関ることで、子どもの自己効力感・自己有用感・自己有能感を高め、子ども達同士の関係を結び直す力を取り戻すことができるのではないかと考え研究を始めた。

対話の定義は、子どもの内面に入って、子どもの立場を汲み取りながら真理に近づくこ

とや教師と子どもが1対1の関係で成立するコミュニケーション、などとした。具体的には、小学4年時から登校支援室に通う登校困難児を、5年生になった時点で担任となり取り組んだ。その学級は担任より特定の子どもの意見が通る状態であったが、生徒指導教諭とチームを組んで指導した。子どもに対しては、毎週家庭訪問をして母親と信頼関係を築いていった。間もなく子どもが放課後登校をするようになるが、その際図書室でじっくりと対話を重ね、本人がクラスの一員であるということを語り続けた。その後、母親と小学校の授業を見学に来るようになり、暫くして一人で朝から学級へ登校するようになった。

 この結果は、①相手の思いや考えを受け止めていることを行動で示したことが伝わった②お互いの抱えている背景を伝え合ったことで心を開いてくれた③自分で抱え込まず、チームで対応したことが良かった、のではないかと考察する。以上から本人のみならず家庭を含めた支援及び本人の育った環境にも焦点を当てた支援をすることが重要ではないか。

         看護技術教育の実践とこころの教育

                           (札幌保健医療大学准教授)

私は、年に5万人誕生する看護師の養成を担当しているが、大学ではどのような教育がなされているか紹介したい。看護については、ナイチンゲールが「自然が病気や障害を予防したり癒したりするのに最も望ましい条件に生命をおくこと」などと述べている。ミードは看護の3要素として3H(Head・Heart・Hands)、-知識・態度・技能を上げている。

学生は、看護学の幹である「基礎看護学」をいかに身に付けるかがポイントである。1年次では看護技術論を学び実習する。看護技術の分野では、日本の第1人者である川島みどりが看護技術の本質的規定をし、看護学は歴史が浅いからとして、客観的法則性と主観的法則性の両方の意義を説いた。実際、患者に注射する場合など看護の現場では主観的判断が伴う。川島は、看護技術は看護師自身の感覚器で得た情報を分析して、実施方法を頭で考え、それを伝達して全身で看護の対象者に表現するものである。それらのすべてに、相手を思いやる心情が根底になければならない、これを「巧みな技」と述べている。

学生は、形(模倣)、型(自分なり)、可(極める)の三段階を経て技術を修得していくが、私は、わかりやすく、体験学習を取り入れ、興味関心を引き出す授業を心がけている。


北海道人格教育協議会

教育の目的は、教育基本法の第一条にあるとおり、「人格の完成」にあります。子どもたちの豊かな未来、幸せな未来のために、家庭・学校・地域社会が連携しながら役割を果たすことができるように、「人格教育」とは何かを考え、実践していきたいと思います。

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